加藤治郎 家族をうたう
五月十日(土)
わが妻が今日のゼリーに浮かせたる苺を食へば春の味のする
稲森宗太郎
 昭和五年四月、稲森宗太郎は喉頭結核で亡くなった。二十八歳の若さであった。『水枕』は遺歌集である。この歌は、亡くなった年の作で「ある日に」という詞書きがある。高熱に苦しむ夫のための、妻の心尽くしのデザートである。柔らかいゼリーに今日は苺が浮いている。目にも涼しく美しい。ああ、春だ。春の味だ。もう再び春はやってこないと思っている。万感の結句である。
(『水枕』昭和五年刊行)
Familyn's Tanka/Jiro KATO
( c) Copyright 2008 FURANSUDO All rights reserved.