《九月十四日》早稲の香や伊勢の朝日は二見より

支考しこう

地名を二つも入れた句は珍しい。伊勢の国に二見ヶ浦からのぼってきた朝日が射すというのは常識なので、言葉の無駄遣いのようにも見えるが、「伊勢の朝日は二見より」の当たり前を噛みしめているところに、ありがたき伊勢の地で折しもあけぼのに居合わせた感動が率直に伝わってくる。「早稲の香」を配して豊年を予感させているところは、皇室の氏神が存する「伊勢」の句にいかにもふさわしく、「浜荻」などとともに和歌で詠まれてきた「伊勢」という地名の、意外に新しい詠み口ではなかったか。同じく「早稲の香」を詠んだ「早稲の香や分け入右は有磯海」(『おくのほそ道』)について、作者の芭蕉は「もし、大国に入て句をいふ時は、その心得あり」(『三冊子』)と言っている。大国にて句を作るときには、それに似つかわしい、風格のある句を作るべきだと言うのだ。支考は、その教えをしっかりと守っている。『梟日記』は、支考の西国行脚の紀行文。

(『梟日記』)●季語=早稲(秋)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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