《九月十五日》稲むしろ近江の国の広さ哉

浪化ろうか

「稲むしろ」とはこの場合、稲田の平らかな広がりを莚に喩えた表現。敷かれた莚のように稲田が続く、この近江の国は、まことに広大であることよ、という句意。稲田のことをいいながら、穏やかな琵琶湖もまたイメージされるところに妙味がある。湖の平らかさと、稲田の平らかさ、その二つが手を取り合って、広々とした近江の眺めを作り出しているのだ。近江平野の風景であろうが、「国」にまで対象を広げた誇張表現によって、おおらかな土地誉めの句となった。「かな」止めもよく効いていて、風景に圧倒される作者の思いが汲み取れる。前日の句に引き続き、この句もまた、芭蕉の「もし、大国に入て句をいふ時は、その心得あり」(『三冊子』)の教えどおり、歴史ある近江の国にふさわしい風格のある一句である。

(『名月集』)●季語=稲むしろ(秋)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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