《九月十六日》連れのあるところへ掃くぞきり〴〵す

丈草じょうそう

部屋の掃除をしていて、屋内に見つけたこおろぎ。ひとりぼっちのおまえを、仲間が鳴いているところに掃き出してやるぞ、という句意。小動物に寄せる親切心をひけらかしているようにも聞こえるが、「きりぎりす」の季語につきものの恋の情趣を、諧謔に転じた句として読みたい。「きりぎりすいたくな鳴きそ秋の夜の長き思ひは我ぞまされる 藤原忠房」(『古今和歌集』)の歌に見られるような、独り身の孤独をこおろぎに重ねる詠み方を踏襲しつつ、こんなところにいたのでは逢うにも逢えないぞと揶揄うように呼びかけている。こおろぎを自分と同類と見なして共感しつつも、ホウキで掃き出すという乱暴な扱いをしているところが、作者の武骨ぶりを思わせて何とも可笑しい。『俳諧雅楽集』には「蛬」の本意について「哀に淋しき心」とある。確かにこおろぎの声は寂しさを誘うのだが、寂しさに加えて可笑しみを潜ませたことで、丈草の句はより深みを得た。

(『そこの花』)●季語=きりぎりす(秋)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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