《九月二十三日》初潮や鳴門の浪の飛脚舟

凡兆ぼんちょう

「初潮」は、陰暦八月十五日の潮。名月のころ、もっとも潮が高くなる。高潮に乗じて、渦潮が荒ぶる鳴門の海峡を、一艘の飛脚舟が颯爽と渡っていく、というのだ。飛脚舟は、火急の知らせを運ぶ舟。動詞を一切使っていないのにもかかわらず、波の荒々しさや、飛脚船の速さが伝わってくる技は、特筆に値する。注目するべきは、その韻律。「はつしお」とア音にはじまり、「鳴門」「浪」の「な」を重ねたことで力強い調べとなっている。また、「初潮」「鳴門」「浪」と短い名詞をテンポよく重ねた上で、最後は「飛脚舟」の硬質な響きの五音が引き締めている。凡兆が鳴門海峡を渡った記録はないので、想像句とされる。名月、渦潮、飛脚船から成る、理想美の世界が創造されている。

(『猿蓑』)●季語=初潮(秋)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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