《十一月九日》だまされし星の光や小夜さよ時雨しぐれ

羽紅うこう

「小夜時雨」は、夜に降る時雨。いかにも風情のある言葉だが、それゆえに「だまされし」の俗っぽい言葉が引き立つ。この句における「だまされし」は面白い働きをしていて、星の光が騙されたという擬人化とも、作者自身が騙されたとも取れる。そのあたりをはっきりさせないで、二重の意味を持たせていると見た方が、一句の趣は深くなる。句意は明瞭で、宵のうちにはあれほど輝いていた星の光が、嘘だったかのように、突然の時雨で見えなくなってしまった、というのだ。『後撰集』の詠み人知らずの歌「神無月降りみ降らずみ定めなき時雨ぞ冬のはじめなりける」にあるとおり、時雨とはふいに降ったかと思うとすぐにやんでしまう定めがたい雨。ふいうちのような降り方を、「だまされし」はまさに言い当てている。

(『猿蓑』)●季語=小夜時雨(冬)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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