《十二月八日》寒菊の隣もありやいけ大根だいこ

許六きょりく

雅に咲く寒菊の隣では、春に備えて人々が土に大根をせっせと生けている、という句意。「寒菊」の本意は『俳諧雅楽集』によれば「霜雪に屈せぬ心 寒の字力入るべし」という。寒さの中で凛と咲く姿を詠むならいは古くから変わらず、水原秋櫻子の名吟「冬菊のまとふはおのがひかりのみ」(『霜林』)にも受け継がれている。一言でいえば〝孤高〟のたたずまいを持つのだ。こうした本意を持つ「寒菊」にあえて挑んだのが許六の句。掘った穴に大根を並べて埋めて貯蔵しておくのが「生大根」であるが、その庶民の生活風景の中において「寒菊」の孤高のありようが不思議と調和しているのを発見したのである。寒菊にも生大根という仲間がいるではないか、と作者は主張しているのだ。この句は洒堂の「鶏や榾焼く夜の火のあかり」(一月十三日参照)とともに芭蕉が「世間俳諧する者、この場所に到りて案ずるものなし」と称賛したという。庶民の生活から拾ってきた材料を平明な言葉で表すという、「軽み」の境地に至っているというのだ。

(『有磯海』)●季語=寒菊(冬)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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