《十二月九日》冬の日をひそかにもれて枇杷の花

曲翠きょくすい

こぼれおちる淡い冬の日差しの下、枇杷の花がひそかに咲いている、というのだ。枇杷の花はけぶるようにひっそりと咲く。その目立たない花のありようを、うまく言い取っている。「冬の日を」をどう解するかは評者によって異なる。ここでは「冬の日差しがひそかに漏れ出ている下で」と解した。しかし、「冬の日々の中、ひそかに漏れ出るように」とも取れる。二つの意味が微妙に重なっているという見方もできる。繊細な言葉遣いの句で、それ自体が枇杷の花のありようを物語っている。いずれにせよ、「冬の日のひそかにもれて」だと、意味が通りやすくはなるが、平凡に堕してしまうことは確か。「冬の日を」として意味の流れに屈曲を与えたのが功を奏している。冬に咲く花はきわめて乏しい中で、枇杷の花のかすかな美に着目したのは手柄である。

(『菊の道』)●季語=枇杷の花(冬)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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