《三月十六日》三月の十六日の木蓮の下で会いたり消えいし猫と

休日。映画「マスカレードホテル」を観に行き、木村拓哉はなで肩だと気づく。
しばらく見掛けなかった野良猫のオナカシロコを発見。月極め駐車場を悠々と歩いている。驚かさないように遠くから見守っていると、赤いステーションワゴンの下に隠れてしまった。以前より人の気配に敏感になっているような気もするが、冬を無事に乗り切ってくれていたことを喜ぶ。
夜は春キャベツを料理する。お浸しと浅漬け。お浸しは電子レンジでチンするだけ。味付けは無し。キャベツの甘味だけで十分においしい。浅漬けはきゅうりと一緒に。こちらは薄い塩味で、素材の味をたのしむ。春の野菜を食べると体の中がきれいになる感じがする。そして元気が出る。

著者略歴

藤島 秀憲(ふじしま ひでのり)

歌人、「心の花」編集委員

1960年、埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業。「日本語の変容と短歌――オノマトペからの一考察」により現代短歌評論賞。第1歌集『二丁目通信』により現代歌人協会賞、ながらみ書房出版賞。第2歌集『すずめ』により芸術選奨文部科学大臣新人賞、寺山修司短歌賞。現在「歌壇」「うた新聞」「現代短歌新聞」にエッセイを連載。現代歌人協会会員、NHK学園短歌講座専任講師。

 

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バックナンバー

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  • 3月25日:越すたびに捨てていつしかまた並ぶ太宰治の黒き背表紙
  • 3月24日:ボックス席にひとり座りぬ 金町に柏に我孫子に伯父伯母がいた
  • 3月23日:のっけから「愛」ではじまる類語辞典 「愛苦しい」と誤用例あり
  • 3月22日:春闌けて今に今さら知り得たり「逮夜」は逮捕された夜ならず
  • 3月21日:花立ての雨を捨てたりちちははの墓にも春の雨は降るらし
  • 3月20日:晩秋の展覧会に見し素描 オーデンセのさくら今咲くころか
  • 3月19日:酔うというこころやさしき友だちにふるまいており木の芽たらの芽
  • 3月18日:車窓には春の夕焼け「えっ、なに」と今日いくたびか問い返しおり
  • 3月17日:「ああ、春」と箸を伸ばせば頼綱の箸ものびくる春のかおりに
  • 3月16日:三月の十六日の木蓮の下で会いたり消えいし猫と
  • 3月15日:春の雨さしすせそそと降りそそぐ木々に花壇に畑に人に
  • 3月14日:上の階の男女の去りてムーミンのお腹のような安眠来たり
  • 3月13日:「つばめ来る、星谷材木店に来る……」ここまで去年の春に詠みしが
  • 3月12日:冬物も春物もいる朝電車 川こえるたび一枚脱ぎぬ
  • 3月11日:震災のなくても父は死んだだろう「やがて」「そして」が少し遅れて
  • 3月10日:禁煙に失敗したる男来て風を背に受け火を熾しおり
  • 3月9日:迷いつつホットをたのむ浅き春 キャサリンに捧げる本をひらきつ
  • 3月8日:ひさびさにこころが弾む手をあげてよい子のように道をわたれば
  • 3月7日:三本の脚となるまで使われしコタツが道のほとりにありぬ
  • 3月6日:かの日より八年の経て失いぬ菓子パン二個で満ち足りる吾を
  • 3月5日:伸び伸びと倒れていたる自転車に寄らぬすずめと飛び乗るからす
  • 3月4日:通過する電車がめくる8ページ近藤勇の首は落ちたり
  • 3月3日:無洗米なれども洗い今日われはゲラに一つの誤字を見落とす
  • 3月2日:ふるさとに妻を率て来て鯖を食う旅とは呼べぬほどの旅して
  • 3月1日:禁煙をもう四十年つづけおり富士は遠くにあるほど尊

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