《四月十六日》誰よりも遠き背中よクロッカス

東京近辺の「クロッカス」はとっくに盛りを過ぎていると思う。しかし、ここであえて詠んでみたのは、毎年四月下旬もしくは五月に「蝦夷句会」を再開するにあたって、「この季語、実は重要だった」と思うに至ったからである。東京ではなく、あくまでも北国で、という意味だが。
蝦夷句会はすでに十年以上続いている。私があらかじめ十の兼題を出し、それでせっせと句をつくって貰う。題はいかにも北海道らしいものもあるし、全国共通のものもある。秋には郷里の余市で葡萄狩&ジンギスカン鍋吟行をする。句会費は全てプールしてあるので(私は飛行機代を含め、一円も貰わない)、吟行補助費として、結構出せるのは嬉しいことだ。
しかし、春先の植物の兼題をどうするか、いつも悩む。雪のたっぷりある時期は冬ごもりの時でお休みにしてあり、雪がとける四月頃に再開としているが、とにかく植物がない。花が一切咲いていない。
しかしある年、母の入院に付き添って小樽に行った時、クロッカスだけが咲いていたのを見た。月並みなことばではあるが、感動した。色のない世界に慎ましい光をもたらしてくれた花。あれからこの花を好きになった。

●季語=クロッカス

著者略歴

櫂 未知子(かい・みちこ)

一九六〇年、北海道生まれ。「群青」共同代表、「銀化」同人。公益社団法人 俳人協会理事。公益社団法人日本文藝家協会・国際俳句交流協会各会員。
句集に『貴族』(第二回中新田俳句大賞受賞)・『蒙古斑』、第三句集『カムイ』にて、第57回俳人協会賞、第10回小野市詩歌文学賞を受賞。句文集に『櫂未知子集』、著書に『季語の底力』(第十八回俳人協会評論新人賞受賞)『食の一句』『言葉の歳事記』『季語、いただきます』、共著に『第一句集を語る』などがある。

 

 

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  • 4月22日:火に水に振り回されて春深き
  • 4月21日:春の闇最終便の窓にひとり
  • 4月20日:まだ硬く蝦夷の風また春の風
  • 4月19日:春筍のしづけさ君のあどけなさ
  • 4月18日:ひそやかに夜の及びて木の芽和
  • 4月17日:茶摘みせむとて清らかに指と指
  • 4月16日:誰よりも遠き背中よクロッカス
  • 4月15日:辛夷はまだかあれは余市のともしびか
  • 4月14日:三毛猫の背のなだらか風光る
  • 4月13日:蝦夷地には蝦夷の姿のふきのたう
  • 4月12日:すでにさう花筏とはいへないが
  • 4月11日:藤咲いてこの世のむらさきを尽す
  • 4月10日:桜蕊そろそろ降ると神楽坂
  • 4月9日:鳥語淡し春夕焼と呼ぶべきを
  • 4月8日:おとがひの何と綺麗な虚子忌かな
  • 4月7日:花過ぎの窓より東京の光
  • 4月6日:合宿といふ夜空へと花吹雪
  • 4月5日:風光る緑の足りぬ絵の具箱
  • 4月4日:春泥の時には美しくあらむ
  • 4月3日:アドバルーン飛んで入学式の朝
  • 4月2日:ひつそりと蛇口は光りクロッカス
  • 4月1日:三鬼忌の大魚の鱗ざくざくとる

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