《六月十四日》地獄てふオーデコロンのあらまほし

たぶん、この日に北海道へ行く。二泊が限度だろうか、それとも三泊が可能か、わからない。
新千歳、そして札幌からの車中、楽しみなのは銭函あたりから見えてくる海岸線だ。本当に海の際を列車は走る。冬は鉛色なのでどうしようもないが、夏の海の色は幸福感を与えてくれる。そして、「これに乗って学校に通っていたのだな」と当時に思いを馳せる。
姉を真似て、シャワーコロンというほとんどすぐに消えてしまうものを買ったこと。
資生堂のスーリールという名のパルファムを奮発してみたこと。
練香というものがあると知ったこと。のちに「香水を分水嶺にしたたらす」などという不埒な句を詠んだ女でも、十代の頃には大人の入り口に立ちたくて精一杯背伸びをしていた。
十代から二十代前半にかけてはつらいことばかり。ほとんど地獄である。それは、なりたい自分と現状との間に差がありすぎるから。それを無責任に「若い人には無限の未来がある。青春っていいね」などと口にする大人のなんと多いことか。

●季語=オーデコロン

著者略歴

櫂 未知子(かい・みちこ)

一九六〇年、北海道生まれ。「群青」共同代表、「銀化」同人。公益社団法人 俳人協会理事。公益社団法人日本文藝家協会・国際俳句交流協会各会員。
句集に『貴族』(第二回中新田俳句大賞受賞)・『蒙古斑』、第三句集『カムイ』にて、第57回俳人協会賞、第10回小野市詩歌文学賞を受賞。句文集に『櫂未知子集』、著書に『季語の底力』(第十八回俳人協会評論新人賞受賞)『食の一句』『言葉の歳事記』『季語、いただきます』、共著に『第一句集を語る』などがある。

 

 

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バックナンバー

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  • 6月15日:一艘づつ詩人を乗せて烏賊釣火
  • 6月14日:地獄てふオーデコロンのあらまほし
  • 6月13日:はつかなる隙間隙間を草むしり
  • 6月12日:螢籠置けばすなはち闇生まれ
  • 6月11日:人形のまなこひたひた五月闇
  • 6月10日:髪洗ふ海の匂ひを流すべく
  • 6月9日:唐突やはまなすの紅きみの紅
  • 6月8日:とりあへず祭のかたち火のかたち
  • 6月7日:ゆつくりと吐き出す絵の具時計草
  • 6月6日:好きな英単語が三つかたつむり
  • 6月5日:分類は誰のためなる虎が雨
  • 6月4日:とろとろと街の灯に似る梅酒かな
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