《六月十五日》一艘づつ詩人を乗せて烏賊釣火

蝦夷。夕食は姉夫婦とイタリアンか回転寿司にすると思う。田舎だということもあるが、姉たちはそれぞれが極端な偏食のため、皆で一緒に食べられる店がほとんどない。かくしてそのどちらかになってしまう。一方はハムやソーセージに至るまで肉類が全く駄目、もう一方はとにかく好き嫌いのプロとなれば、行ける場所はほとんどないということになる。珍しく好みが共通しているのは鰻だが、おいしく食べさせてくれるところなど当然ない。
夏場の食後、レストランの帰りに「海を見たい」と私が言い出すことがある。すぐ近くの海岸に立つ。それはひたすら烏賊釣火が見たいから。沖が煌々と照らされているさまは美しいのと同時に、どこかしら寂しい。真っ暗な水平線に、説明し難い光が連なっているさまはなかなかいい。漁師たちは生活のために船に乗っているけれど、それが詩的に思えてくるのは、明るく哀愁を帯びた灯ゆえか。

●季語=烏賊釣火

著者略歴

櫂 未知子(かい・みちこ)

一九六〇年、北海道生まれ。「群青」共同代表、「銀化」同人。公益社団法人 俳人協会理事。公益社団法人日本文藝家協会・国際俳句交流協会各会員。
句集に『貴族』(第二回中新田俳句大賞受賞)・『蒙古斑』、第三句集『カムイ』にて、第57回俳人協会賞、第10回小野市詩歌文学賞を受賞。句文集に『櫂未知子集』、著書に『季語の底力』(第十八回俳人協会評論新人賞受賞)『食の一句』『言葉の歳事記』『季語、いただきます』、共著に『第一句集を語る』などがある。

 

 

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バックナンバー

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  • 6月13日:はつかなる隙間隙間を草むしり
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  • 6月11日:人形のまなこひたひた五月闇
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