《七月十二日》夕映えをたしかめんとて釣忍

出張も好きだが、家(といってもマンションの一室)にいるのも大好き。「一週間出ないで暮らしなさい」といわれても一向に構わない。
今住んでいる部屋は九階にある。華麗なる夕焼を見られることも多い。家族はよく「今日の空はなかなかない色だ」と私をいざなう。二人して外廊下に出て、刻々色の変わってゆく夕空をしばらく眺める。そして、室内に戻り、夕食となる。
家族や夫婦のあり方として、価値観が近いとか、共通の趣味があるとかないとかが、よく取沙汰される。私はある時の空を共有できたら、それでじゅうぶんではないかと思っている。多くの言葉を費やさず、ただ空の色をそれぞれが心の中で賛美する。そして、何年かして生き残った誰かが「あの時の夕映え」をちらりと思い出す。それでいい。

●季語=釣忍

☆六月十四日付の「オーデコロン」の句、津田ひびき様の先行作と似ていることが判明いたしました。津田様にお詫び申し上げるとともに、毎日お読み頂いている皆様にもご迷惑をおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます。

著者略歴

櫂 未知子(かい・みちこ)

一九六〇年、北海道生まれ。「群青」共同代表、「銀化」同人。公益社団法人 俳人協会理事。公益社団法人日本文藝家協会・国際俳句交流協会各会員。
句集に『貴族』(第二回中新田俳句大賞受賞)・『蒙古斑』、第三句集『カムイ』にて、第57回俳人協会賞、第10回小野市詩歌文学賞を受賞。句文集に『櫂未知子集』、著書に『季語の底力』(第十八回俳人協会評論新人賞受賞)『食の一句』『言葉の歳事記』『季語、いただきます』、共著に『第一句集を語る』などがある。

 

 

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