《八月十六日》標本のごとくに眠るひとのあり終点に来てなおも標本

久しぶりの出勤。座ると絶対に寝過ごしてしまうくらい眠い。が、幸いなことに混んでいて座れない。これは好機と文庫を開く。浅田次郎の『帰郷』から「帰郷」を読む。戦後まもなくの新宿が舞台。南方で名誉の戦死を遂げたはずの男が生きて帰ってきた。が、郷里には待っていたものは過酷な現実。
戦争によって引き裂かれた家族の悲しい物語なのだが、最後の最後にひとすじの希望の光が差す。どわ~っと涙が出そうになるが耐える。
昼は助六寿司。いなり寿司とのり巻きのセットをなぜ助六と呼ぶのか不思議。
しかし、広辞苑を引けばあっさり出ている。油揚げの「揚」とのり巻きの「巻」で「揚巻」。歌舞伎の「助六」に登場する遊女の名前である。

著者略歴

藤島 秀憲(ふじしま ひでのり)

歌人、「心の花」編集委員

1960年、埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業。「日本語の変容と短歌――オノマトペからの一考察」により現代短歌評論賞。第1歌集『二丁目通信』により現代歌人協会賞、ながらみ書房出版賞。第2歌集『すずめ』により芸術選奨文部科学大臣新人賞、寺山修司短歌賞。現在「歌壇」「うた新聞」「現代短歌新聞」にエッセイを連載。現代歌人協会会員、NHK学園短歌講座専任講師。

 

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