《九月十一日》音に聞く宇都宮なり餃子なり乗り換え時間は五分なれども

日光へ行く。渋谷からいつも乗っている湘南新宿ラインで行くので、旅行するという雰囲気じゃない。だからというので、少し奮発してグリーン車に乗る。グリーン車に乗るのは、これが二回目。一回目は、ずっと昔のこと、短歌研究評論賞の授賞式のあと、いただいた花束を潰さないようにするためにグリーン車を選んだ。あのとき、ホームまで送ってくれた奥田亡羊さんと矢部雅之さんが、発車間際に万歳をしてくれた。うれしいことではあるが、車内にひとり居る身としては、かなり恥ずかしい。花束を二つ抱えた四十代後半の男が万歳で見送られる……知らない人は何と見ただろう。

著者略歴

藤島 秀憲(ふじしま ひでのり)

歌人、「心の花」編集委員

1960年、埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業。「日本語の変容と短歌――オノマトペからの一考察」により現代短歌評論賞。第1歌集『二丁目通信』により現代歌人協会賞、ながらみ書房出版賞。第2歌集『すずめ』により芸術選奨文部科学大臣新人賞、寺山修司短歌賞。現在「歌壇」「うた新聞」「現代短歌新聞」にエッセイを連載。現代歌人協会会員、NHK学園短歌講座専任講師。

 

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バックナンバー

  • 9月22日:肩こりに今でも効けり「肩すとん体操」なるは祖父の直伝
  • 9月21日:塀のうえに七鉢ありし君子蘭あらしの去りてひと鉢増えぬ
  • 9月20日:秋雨にすこし濡れつつ吾木香われより先に墓に来ている
  • 9月19日:おどろけば蝉は短く飛ぶものを秋のひかりにまた腹を見す
  • 9月18日:生活に欠かせぬことの一つなり行善寺坂をくだればのぼる
  • 9月17日:パン係牛乳係の体験は妻にもありてすすむ葡萄酒
  • 9月16日:ひた走る電車の窓をいなびかり斜めに走る 夏過ぎんとす
  • 9月15日:信号の赤を渡らず遅刻して土瓶のように席に着きたり
  • 9月14日:晩年のやたらと長き父なりき息子が傍にいると知らずに
  • 9月13日:対岸のアマゾンの倉庫に窓見えず窓の見えねば働くひと見えず
  • 9月12日:岩波の徳富蘆花より賜りし眠りに過ぎていたり埼玉
  • 9月11日:音に聞く宇都宮なり餃子なり乗り換え時間は五分なれども
  • 9月10日:木造の校舎に始業の鐘を聞くような旅せん湖畔へ行かん
  • 9月9日:ふけてゆく秋をうるうる甘くなる柿にふる雨そして吹く風
  • 9月8日:ドーナツはどこから見てもドーナツと思う心を捨ててから 歌
  • 9月7日:ちょっとした風にも靡く秋の草 祖父母は肺を病みて死ににき
  • 9月6日:広島の優勝はもうなくなりぬ小分けにされて雲の浮く秋
  • 9月5日:髭剃りをするを忘れし今日の顔 秋の新作着て試しおり
  • 9月4日:はつ秋のポプラの影にわが影を仕舞いてバスの影を待つなり
  • 9月3日:ぷっしゅぷしゅ今夜もプルタブを引くわれか、秋には秋の喉ごしの欲し
  • 9月2日:風邪ひけば実物大に戻るわれ夏の終わりに夏風邪をひく
  • 9月1日:越えるべき山を指さす気力なし帰宅難民のイメトレにさえ

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