《九月十二日》岩波の徳富蘆花より賜りし眠りに過ぎていたり埼玉

日光から帰る。中禅寺湖、華厳の滝、日光江戸村、見るところを絞って、のゆったりした旅だった。なんと言っても、旅館の料理と湯と景観、この三つに満足できれば、いい旅だったと言える。観光名所を慌ただしく回る旅は好きじゃない。
旅行中に短歌を十首くらい作りたかったが、一首もできなかった。写真も二、三枚しか撮らなかった。頭も手も使わず、ただただボンヤリ過ごしていた。
夜遅くに帰宅して、すぐにパソコンのメールのチェック。明日でも良いと思うのだが、習慣は直しにくい。チェックと言っても、必要なメールはたいがい二本くらいしかなく、ほとんどが宣伝。消す作業が中心になる。せっかくゆったり旅して来たのに、何しているんだか。

著者略歴

藤島 秀憲(ふじしま ひでのり)

歌人、「心の花」編集委員

1960年、埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業。「日本語の変容と短歌――オノマトペからの一考察」により現代短歌評論賞。第1歌集『二丁目通信』により現代歌人協会賞、ながらみ書房出版賞。第2歌集『すずめ』により芸術選奨文部科学大臣新人賞、寺山修司短歌賞。現在「歌壇」「うた新聞」「現代短歌新聞」にエッセイを連載。現代歌人協会会員、NHK学園短歌講座専任講師。

 

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バックナンバー

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  • 9月20日:秋雨にすこし濡れつつ吾木香われより先に墓に来ている
  • 9月19日:おどろけば蝉は短く飛ぶものを秋のひかりにまた腹を見す
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  • 9月15日:信号の赤を渡らず遅刻して土瓶のように席に着きたり
  • 9月14日:晩年のやたらと長き父なりき息子が傍にいると知らずに
  • 9月13日:対岸のアマゾンの倉庫に窓見えず窓の見えねば働くひと見えず
  • 9月12日:岩波の徳富蘆花より賜りし眠りに過ぎていたり埼玉
  • 9月11日:音に聞く宇都宮なり餃子なり乗り換え時間は五分なれども
  • 9月10日:木造の校舎に始業の鐘を聞くような旅せん湖畔へ行かん
  • 9月9日:ふけてゆく秋をうるうる甘くなる柿にふる雨そして吹く風
  • 9月8日:ドーナツはどこから見てもドーナツと思う心を捨ててから 歌
  • 9月7日:ちょっとした風にも靡く秋の草 祖父母は肺を病みて死ににき
  • 9月6日:広島の優勝はもうなくなりぬ小分けにされて雲の浮く秋
  • 9月5日:髭剃りをするを忘れし今日の顔 秋の新作着て試しおり
  • 9月4日:はつ秋のポプラの影にわが影を仕舞いてバスの影を待つなり
  • 9月3日:ぷっしゅぷしゅ今夜もプルタブを引くわれか、秋には秋の喉ごしの欲し
  • 9月2日:風邪ひけば実物大に戻るわれ夏の終わりに夏風邪をひく
  • 9月1日:越えるべき山を指さす気力なし帰宅難民のイメトレにさえ

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