《九月十三日》月まつる少しうれしき手暗がり

この日より一日前に「初雁」用の十句ひとかたまりを送っておかなければ。この句会は郁良さんがいて、ゲスト選者がいて、という形式を取っている。私自身は年に一回ぐらい出席するが、この九月と十月、さらには翌年一月にも出なければならない。これもまた、よき試練だろう。ほかに雑詠五句も用意しなければならない。
今日は十五夜。数年前、無駄に広いルーフバルコニーで、月見の宴を二人だけでしたことを思い出す。花を活け、月光だけでは手元が暗いので蠟燭を用意して。たしか、ワインに合う献立だったはずだ。
都心にいながら、ひっそりと月見をするのは悪くない。こういう時に思い出すのは、北海道の実家の窓辺の小さなテーブルに芒が活けられ、そこそこのしつらえがされたことがあったこと。国道に面した部屋の簡素な月見のセットは、もしかすると私が心の中にこしらえてしまったものなのだろうか。

●季語=月見

著者略歴

櫂 未知子(かい・みちこ)

一九六〇年、北海道生まれ。「群青」共同代表、「銀化」同人。公益社団法人 俳人協会理事。公益社団法人日本文藝家協会・国際俳句交流協会各会員。
句集に『貴族』(第二回中新田俳句大賞受賞)・『蒙古斑』、第三句集『カムイ』にて、第57回俳人協会賞、第10回小野市詩歌文学賞を受賞。句文集に『櫂未知子集』、著書に『季語の底力』(第十八回俳人協会評論新人賞受賞)『食の一句』『言葉の歳事記』『季語、いただきます』、共著に『第一句集を語る』などがある。

 

 

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