《九月十四日》晩年のやたらと長き父なりき息子が傍にいると知らずに

午後六時から中野サンプラザで「心の花」東京歌会。題は「土」。土屋文明を読み込んで歌を作ってやろうと意気込んでいたが、出来なかった。ずいぶん昔だが、文明を使って一首作ったことはあった。〈アララギの写真 茂吉と文明の間のひとは「一人とばして」〉というもの。ずいぶんゴツゴツした歌を作っていたんだなあと自分で自分に驚く。
驚くと言えば、鏡で自分の顔を見て驚くことが増えた。仕事中にトイレに行った時、街を歩いていて鏡に全身が映った時、俺はこんなに老いてしまったのかと驚く。そして、祖父や父と見間違う。ちっとも似てないと思ったいた祖父と父(の晩年)にどんどん似て行く。
渋谷の街に新しいビルが次々に出来ているが、私は渋谷ストリームが好きだ。ブティックとか雑貨店とかは一切なくて、飲食店だけが並んでいる。その単純さが嬉しい。

著者略歴

藤島 秀憲(ふじしま ひでのり)

歌人、「心の花」編集委員

1960年、埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業。「日本語の変容と短歌――オノマトペからの一考察」により現代短歌評論賞。第1歌集『二丁目通信』により現代歌人協会賞、ながらみ書房出版賞。第2歌集『すずめ』により芸術選奨文部科学大臣新人賞、寺山修司短歌賞。現在「歌壇」「うた新聞」「現代短歌新聞」にエッセイを連載。現代歌人協会会員、NHK学園短歌講座専任講師。

 

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バックナンバー

  • 9月22日:肩こりに今でも効けり「肩すとん体操」なるは祖父の直伝
  • 9月21日:塀のうえに七鉢ありし君子蘭あらしの去りてひと鉢増えぬ
  • 9月20日:秋雨にすこし濡れつつ吾木香われより先に墓に来ている
  • 9月19日:おどろけば蝉は短く飛ぶものを秋のひかりにまた腹を見す
  • 9月18日:生活に欠かせぬことの一つなり行善寺坂をくだればのぼる
  • 9月17日:パン係牛乳係の体験は妻にもありてすすむ葡萄酒
  • 9月16日:ひた走る電車の窓をいなびかり斜めに走る 夏過ぎんとす
  • 9月15日:信号の赤を渡らず遅刻して土瓶のように席に着きたり
  • 9月14日:晩年のやたらと長き父なりき息子が傍にいると知らずに
  • 9月13日:対岸のアマゾンの倉庫に窓見えず窓の見えねば働くひと見えず
  • 9月12日:岩波の徳富蘆花より賜りし眠りに過ぎていたり埼玉
  • 9月11日:音に聞く宇都宮なり餃子なり乗り換え時間は五分なれども
  • 9月10日:木造の校舎に始業の鐘を聞くような旅せん湖畔へ行かん
  • 9月9日:ふけてゆく秋をうるうる甘くなる柿にふる雨そして吹く風
  • 9月8日:ドーナツはどこから見てもドーナツと思う心を捨ててから 歌
  • 9月7日:ちょっとした風にも靡く秋の草 祖父母は肺を病みて死ににき
  • 9月6日:広島の優勝はもうなくなりぬ小分けにされて雲の浮く秋
  • 9月5日:髭剃りをするを忘れし今日の顔 秋の新作着て試しおり
  • 9月4日:はつ秋のポプラの影にわが影を仕舞いてバスの影を待つなり
  • 9月3日:ぷっしゅぷしゅ今夜もプルタブを引くわれか、秋には秋の喉ごしの欲し
  • 9月2日:風邪ひけば実物大に戻るわれ夏の終わりに夏風邪をひく
  • 9月1日:越えるべき山を指さす気力なし帰宅難民のイメトレにさえ

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