《十月十二日》商店街のここは出口か入口か地井武男も来た豆大福屋

青山へ。仕事は十二時十五分に終わるので、二子玉川に戻ってから遅めのランチ。モロッコ料理店でクスクスを食べる。クスクスは初体験。運ばれて来たときは、「なんじゃ、この粉っぽい食事は」と思ったが、食べて見ると実においしい。ふわふわとした食感、お菓子を食べている感じ。
森本哲郎さんの旅の本が好きで、よく読んでいた。読むたびに地中海沿岸の国々に憧れた。
その本の中に、クスクスのことが出て来たかさえも忘れてしまったが、長い間、ずっと気になっていたことが一つ叶って、満足の一日。
『詩人与謝蕪村の世界』という森本さんの著書があって、蕪村の凄さを教えられた。「門を出れば我も行人秋のくれ」、この句に何度励まされたことだろう。父と母の介護で、自由がきかなかったときでも、近所に買い物に行くだけでも旅人気分を味わうことができた。

著者略歴

藤島 秀憲(ふじしま ひでのり)

歌人、「心の花」編集委員

1960年、埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業。「日本語の変容と短歌――オノマトペからの一考察」により現代短歌評論賞。第1歌集『二丁目通信』により現代歌人協会賞、ながらみ書房出版賞。第2歌集『すずめ』により芸術選奨文部科学大臣新人賞、寺山修司短歌賞。現在「歌壇」「うた新聞」「現代短歌新聞」にエッセイを連載。現代歌人協会会員、NHK学園短歌講座専任講師。

 

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