《十一月十日》石蕗咲くやひそやかなるは猫の髭

『短歌』十一月号が面白かった。角川短歌賞受賞者のうちのお一人は昭和三十四年生まれ、還暦の男性である。受賞作品のタイトルは「季の風」。あら、季語関連なのかしらと思ったら、作者の受賞のことばに「短歌から逃げたくなって、俳句を読むようになった」とあった。作品には楸邨の句をベースにしたものもあった。
  陽のあたるクレーンのよこで飯食えば雲雀が空を押し上げている  田中 道孝
  カップ麺に茂吉秀歌をふたにして鵯が来るベンチに座る
  耳たぶに銀のピアスをつけている鉄筋工が鉄筋かつぐ
地下足袋、足場、丸太、型枠、スコップ。そのままでは詩の素材にはなりにくいものばかり。でも、そういったものを詩に昇華させるのが詩人の役割だ。ちなみに私は特に鳶職に憧れを抱いている。高所で仕事をする人たちであり、ニッカーボッカーを穿いているから。あのズボンは猫の髭と同じようなセンサーの役割を持つという。

●季語=石蕗の花

著者略歴

櫂 未知子(かい・みちこ)

一九六〇年、北海道生まれ。「群青」共同代表、「銀化」同人。公益社団法人 俳人協会理事。公益社団法人日本文藝家協会・国際俳句交流協会各会員。
句集に『貴族』(第二回中新田俳句大賞受賞)・『蒙古斑』、第三句集『カムイ』にて、第57回俳人協会賞、第10回小野市詩歌文学賞を受賞。句文集に『櫂未知子集』、著書に『季語の底力』(第十八回俳人協会評論新人賞受賞)『食の一句』『言葉の歳事記』『季語、いただきます』、共著に『第一句集を語る』などがある。

 

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 11月16日:青い紙赤い紙舞ふ冬菜畑
  • 11月15日:寄付を呼び掛ける一隅七五三
  • 11月14日:枯野まで子どもを連れてゆくこころ
  • 11月13日:閉ざすべきこころと風邪気味のこころ
  • 11月12日:笑顔などないものと決め初氷
  • 11月11日:はつふゆの紅茶をひとつくださいな
  • 11月10日:石蕗咲くやひそやかなるは猫の髭
  • 11月9日:青年の横顔いくつ小六月
  • 11月8日:立冬や言の葉選ぶための窓
  • 11月7日:東京の凩を抱く夜空かな
  • 11月6日:破芭蕉夜の深さに耐へきれず
  • 11月5日:風淡し鹿火屋守とは老いやすく
  • 11月4日:磨くべき窓を忘れてピラカンサ
  • 11月3日:ぴかぴかと東京タワー文化の日
  • 11月2日:猫吸ひのくまなく冬支度は濃く
  • 11月1日:青春の二字を忘れて黄落期

俳句結社紹介

Twitter