《二月十一日》おのづから孤高になるまで浮かべよと告げられしやうに巨船がひとつ

連日ひとつの白い旅客船から目が離せない。私たちはあの船にどんな行き先を告げているのだろう。何をしようとしているのだろう。

著者略歴

川野 里子(かわの さとこ)

歌人 歌誌「かりん」編集委員

1959年大分県生まれ。千葉大学大学院修士課程修了。読売新聞西部歌壇、日本農業新聞選者など。立正大学、放送大学非常勤講師。平成20年度、21年度NHK教育放送「NHK短歌」選者。

歌集に『太陽の壺』(第13回河野愛子賞)、『王者の道』(第15回若山牧水賞)。『硝子の島』(第10回小野市詩歌文学賞)、『歓待』など。評論集に『幻想の重量―葛原妙子の戦後短歌』(第6回葛原妙子賞)、『七十年の孤独-戦後短歌からの問い』、『鑑賞 葛原妙子』(笠間書院)など 。

 

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  • 2月25日:<マスクしばらく入荷しません>しばらくといふ時間しんと載る棚があり
  • 2月24日:ガッルス・ガッルス・ドメスティクスは姿なし白卵赤卵あまた積まれて
  • 2月23日:青丹よしブルーシートの家々は春来れどなほ真つ青なまま
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  • 2月20日:盧舎那仏建立せよといふ声の悲鳴は籠もる盧舎那仏の裡
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  • 2月17日:シャンパンの泡を見てをり注がれし泡がしづもり祈りとなるまで
  • 2月16日:スカイツリーいつより千手をなくしたる観音として 風に聳ゆる
  • 2月15日:書き泥む手紙わたしはその人の心の水面に浮く糸蜻蛉
  • 2月14日:日本晴れはろばろと空のさびしさの真下日本といふ船浮かぶ
  • 2月13日:サージカルマスクはづせば真裸のこんな真顔で生きてゐるわれ
  • 2月12日:空を飛びまた空を飛びかへりきて羽繕ひせず脱ぎぬコートを
  • 2月11日:おのづから孤高になるまで浮かべよと告げられしやうに巨船がひとつ
  • 2月10日:こころのどこかに転がつたまんま動けない節分の豆だつた豆
  • 2月9日:ショッピングモールの床は水面のごとしづか水面を歩み掃除機を買ふ
  • 2月8日:飯田橋駅過ぎればあんみつ屋のことを思へりその蜜のことを秘密のやうに
  • 2月7日:道に迷ひだんだん小さくなるわれは<ひざまくら耳かきの店>も過ぎたり
  • 2月6日:日本をしばし離れゐて再会す鯵、鯖、鰯のなつかしき顔
  • 2月5日:ターンテーブルに鞄ながれてわが眼ともに流れて空港ただよふ
  • 2月4日:スコールのなかなる慰霊碑突き抜けてさびしさを見す日本人われに
  • 2月3日:手袋し屋台で食べるドリアンは密売武器のやうなり食べる
  • 2月2日:果樹園通りまつすぐに伸びてシンガポールこの国の名は果実のひびき
  • 2月1日:歓喜のごとスコールは来て孤独なり光に変はり消えてゆく街

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