《十月十九日》あやふき病乗り越えし友の声がせりあの犀がまたむりむりと立つ

闘病半年。ステージⅣの癌を乗り越えたという電話が来た。

著者略歴

川野 里子(かわの さとこ)

歌人 歌誌「かりん」編集委員

1959年大分県生まれ。千葉大学大学院修士課程修了。読売新聞西部歌壇、日本農業新聞選者など。立正大学、放送大学非常勤講師。平成20年度、21年度NHK教育放送「NHK短歌」選者。

歌集に『太陽の壺』(第13回河野愛子賞)、『王者の道』(第15回若山牧水賞)。『硝子の島』(第10回小野市詩歌文学賞)、『歓待』など。評論集に『幻想の重量―葛原妙子の戦後短歌』(第6回葛原妙子賞)、『七十年の孤独-戦後短歌からの問い』、『鑑賞 葛原妙子』(笠間書院)など 。

 

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バックナンバー

  • 10月20日:どんぐり落ちどんぐり消えてどんぐり落ち乳母車のやうな陽だまりがある
  • 10月19日:あやふき病乗り越えし友の声がせりあの犀がまたむりむりと立つ
  • 10月18日:子供心といふもの小暗く駄菓子屋に当たり籤引きかがやきたりき
  • 10月17日:いつのまに猫去りてまた猫が来るベランダにわれはちかづくべからず
  • 10月16日:疼痛のやうなもの無花果にあらむうちがはに向きて開きし花に
  • 10月15日:ざはざはと人うごき初め羽繕ひ触覚を磨き明日仕事なり
  • 10月14日:友からの電話につかまりつかまつてゐるかもしれず蜘蛛の糸に二人
  • 10月13日:新聞をひらく音いたく丁寧に夫がゐるなり若き日を終へ
  • 10月12日:カレンダーに金剛インコ鮮やかなりふりかへるときまた静止して
  • 10月11日:掴まれ吊されはらわた出され深閑とわれをみてゐる鮟鱇ひとつ
  • 10月10日:怒るわれを怒らぬ息子がみてをりぬ未来からしんと振り返るやうに
  • 10月9日:両手もて茶碗を包むことありぬわが心臓を包むかたちに
  • 10月8日:玉蒟蒻まろまろと照りよく笑ふ友と飲むなり画面抜け出し
  • 10月7日:背後霊の話聞きをればわが背後気配して夜の電柱が立つ
  • 10月6日:夜のビルのガラスのなかに人ひとり働きてをり漂ふ匣に
  • 10月5日:山芋を摺り下ろし痒み堪へつつわが手は摑みしものを離さず
  • 10月4日:氷上を滑りゆくやうリモートワーク、リモートワークして誰にも会はず
  • 10月3日:あの寿司屋にていつか逢はむと言ひあひて十年逢はずウニ、トロが待つ
  • 10月2日:裏藪の子狸寝たかにんげんに逢はねば毛深く情濃くゐる
  • 10月1日:秋空はくまなく晴れて見えぬもの綱渡りしをりはろばろとひとり

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