《一月五日》 岡井さんの誕生日。亡きひとの生誕の日をよみせむはさびし遙かに川明かりして

著者略歴

大辻隆弘(おおつじ・たかひろ)

1960年三重県生。「未来」編集発行人・選者。岡井隆に師事。

歌集に『水廊』『抱擁韻』(現代歌人集会賞)『デプス』(寺山修司短歌賞)『景徳鎮』(斎藤茂吉短歌文学賞)、歌書に『子規への溯行』『アララギの脊梁』(島木赤彦文学賞・日本歌人クラブ評論賞)『近代短歌の範型』(佐藤佐太郎短歌賞)などがある。

 

 

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バックナンバー

  • 1月25日:「もつと早く死ぬべきだのに」などといふ言葉も若き傲慢に過ぎず
  • 1月24日:噯より小さき神がひとつ生れ、またひとつ生れ、昇天をする
  • 1月23日:懇親会なきは気やすく傾ぎたる陽ざしあかるき道に別れぬ
  • 1月22日:3Dの顔に彫られてゆく耳、目 薄気味悪しとまでは言はねど
  • 1月21日:権力はひそやかにしも用ふべしジョセフ・フーシェのごとくしづけく
  • 1月20日:くれなゐの薔薇の棘がゆびに触れゆびを刺したるごとき暁紅
  • 1月19日:御推薦をお願ひしますといふ手紙さびしみ読みて推薦をせり
  • 1月18日:冬枯れの谿へせばまりゆく道をそぼそぼとゆく心と言はめ
  • 1月17日:冷やけき手摺に紙をあてがひて歌の欠片を書き記したり
  • 1月16日:夢のなかにわが抱くアルトサックスはひえびえとしていつも鳴らない
  • 1月15日:東に雲の平が移動してターナーの絵のごとき曇天
  • 1月14日:耳孔といふ暗き井戸より朝々に汲むべき水のありといはなくに
  • 1月13日:首もとに押し当つる刃の冷たさを思ひみよとぞわれは言ひたる
  • 1月12日:降参のかたちに諸手さしあげて冷きひかりの輪に斬られをり
  • 1月11日:ガリ版に星取表を切りてゐき相撲賭博の胴元として
  • 1月10日:深き耳の青年が来て垂鉛を降ろせるやうに打音を糺す
  • 1月9日:もみぢせし岸の櫟も葉を落としあかるくなりぬ冬の汀は
  • 1月8日:坂くだる少年ふたり自転車の銀のお尻が寄りて離れて
  • 1月7日:酔ひ著きこゑに聞きたる「ああ、君が岡井の弟子か」と言ひしひとこと
  • 1月6日:輻湊をする低音がたゆたひてバッハは沼だ、川などでなく
  • 1月5日:亡きひとの生誕の日を嘉せむはさびし遙かに川明かりして
  • 1月4日:岨道が森につづいて小寒のけさ見た夢はややカフカ的
  • 1月3日:黄緑の絵具を足してゆくやうにノースライトの窓があかるむ
  • 1月2日:おのづから滲める黒をおもふまで雁来紅の葉の紅はきはまる
  • 1月1日:霧のなかを歩める鷺がひとつづつ夜明けの夢を滅ぼしてゆく

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