《四月九日》 佐藤歯科医院緩慢にくづほれさせてゆくことが仕事と言ひぬ歯科医の彼は

著者略歴

大辻隆弘(おおつじ・たかひろ)

1960年三重県生。「未来」編集発行人・選者。岡井隆に師事。

歌集に『水廊』『抱擁韻』(現代歌人集会賞)『デプス』(寺山修司短歌賞)『景徳鎮』(斎藤茂吉短歌文学賞)、歌書に『子規への溯行』『アララギの脊梁』(島木赤彦文学賞・日本歌人クラブ評論賞)『近代短歌の範型』(佐藤佐太郎短歌賞)などがある。

 

 

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バックナンバー

  • 4月19日:はなやげる午後の残滓を卓上に置きざりにして夕暮れが来つ
  • 4月18日:歌誌「未来」のページが指を切り裂いてわたしは渇くわたしの歌に
  • 4月17日:ほのぬるく眠る乳児を抱きゐるふたつの腕あるいは入り江
  • 4月16日:夕つ日にあかるむ枝がもう翳りはじめむとする川面に映る
  • 4月15日:アスファルトの上に倒れし自転車の前輪がいま見あげゐる空
  • 4月14日:螢烏賊のまなこ零れてゐたりけり伊万里の皿の青きおもてに
  • 4月13日:はなびらの流るる窓を双発の軍用ヘリが浮きあがりたり
  • 4月12日:樟の葉の濃き影ゆれてそのひだり欅のあはき翳がさはやぐ
  • 4月11日:三葉躑躅の花のさかりに来よといふ斜りを占めて咲かむ紫
  • 4月10日:梅の蘂かぐろく残る傍らにわれは立ちたり聖のごとく
  • 4月9日:緩慢に崩ほれさせてゆくことが仕事と言ひぬ歯科医の彼は
  • 4月8日:ひややけく香を放ちつつ樟の木の落ち葉ころがる音を聞きたり
  • 4月7日:桃の散るむかうに見えて遥かなる麦の葉むらは濃くなる緑
  • 4月6日:あたらしき職場は樟が風に鳴る下陰にわが車を駐めて
  • 4月5日:惜しまるることなく去りし寂しさもあはれ一夜をすぎて静けし
  • 4月4日:風化する砂の墓碑銘ひとたびは手触れふたたび指に触りつ
  • 4月3日:世界苦などといふものがあり前世紀初頭西欧を浸潤したり
  • 4月2日:逆光の傾りの草がかがやいて遥けし崖の上までの距離
  • 4月1日:陽のなかに鳴いてのぼつてゆく雲雀いつ息つぎをするのであらう

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