《七月十八日》竜飛崎に友の吟ずる「幾山河」身にしみしとふ太宰治よ

安部龍太郎著『等伯』は直木賞受賞時に読んで忘れられない一冊だが、このたび文庫本であらためて読んだ。そして、文庫本の島内景二氏の渾身の解説に感銘した。その解説のなかで、若き安部龍太郎氏の小説の主人公が太宰治の『津軽』を愛し津軽のたつざきを訪れた話がでてくる。太宰治が「本州の局地」「本州の袋小路」と書いているところだ。その竜飛崎の宿で太宰治は「幾山河」の朗詠を聞いているのだ。私には『津軽』の忘れられない一場面である。

著者略歴

伊藤一彦(いとう かずひこ)

昭和18年、宮崎市に生まれる。早稲田短歌会を経て、「心の花」に入会し、現在選者。
歌集に『海号の歌』(讀賣文学賞)、『新月の蜜』(寺山修司短歌賞)、『微笑の空』(迢空賞)、『月の夜声』(斎藤茂吉短歌文学賞)、『待ち時間』(小野市詩歌文学賞)、また歌集『土と人と星』及び評論『若山牧水―その親和力を読む』により現代短歌大賞・毎日芸術賞・日本一行詩大賞を受賞。若山牧水記念文学館館長。宮崎市に住む。

 

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