《八月七日》一日を終へし芙蓉の花びらも比喩となりたる蝉もうれしや

栗木京子さんの昨年の短歌日記『南の窓から』が届いた。署名も装幀も、そして本文の歌の組み方もしゃれていてうつくしい。三百六十六日分を一気に読んでしまったが、そのあとあちこちのページを開いている。八月四日は「白き蝉散らばるごとし咲き終へし芙蓉は朝の土に静もる」の歌である。栗木さんは比喩の名手だが、その比喩は生と死を荘厳するためのもののようだ。

著者略歴

伊藤一彦(いとう かずひこ)

昭和18年、宮崎市に生まれる。早稲田短歌会を経て、「心の花」に入会し、現在選者。
歌集に『海号の歌』(讀賣文学賞)、『新月の蜜』(寺山修司短歌賞)、『微笑の空』(迢空賞)、『月の夜声』(斎藤茂吉短歌文学賞)、『待ち時間』(小野市詩歌文学賞)、また歌集『土と人と星』及び評論『若山牧水―その親和力を読む』により現代短歌大賞・毎日芸術賞・日本一行詩大賞を受賞。若山牧水記念文学館館長。宮崎市に住む。

 

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バックナンバー

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  • 8月12日:教育と脅迫わづか一音のちがひと語る信念の風
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  • 8月9日:調和ある微笑なりにき字余りも語割れも句またがりも秘めつつ
  • 8月8日:当人は迷走などと思はねば楽しからむか好き勝手して
  • 8月7日:一日を終へし芙蓉の花びらも比喩となりたる蝉もうれしや
  • 8月6日:絣着て草鞋脚絆に旅をする恋のとりこの幾山河よ
  • 8月5日:成虫は今こそ啼け啼け土中長きいのちぞ嘉し蝉殻に触る
  • 8月4日:ありふれた場面を歌ひ読む者にいかに「待つた」をかけるかが勝負
  • 8月3日:東京でもどこでも今はありのまま『ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ』話し人を引きつく
  • 8月2日:親愛の情をあらわす接尾語の「こ」のあたたかさ土のにほひす
  • 8月1日:からすらに食はれたるらし土産などなければよきか庭のブルーベリー

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