《八月十三日》「死んでからお菓子供へて、いや死んでからは意味ない」と言ひゐたる母

盂蘭盆である。昨年は母の初盆だった。母が百一歳で世を去って一年半あまりになるが、今でも母の思い出を語っ下さる人が多くいるのが嬉しいし有り難い。それだけ印象に残る母だったようだ。最晩年は甘い物を我慢しなければならないのが悩みだった。千葉から帰ってきた娘と今日はお墓参り。その娘はおりあるごとに「自分はばあちゃんに似ている」という。おしゃべりで、人を喜ばすことが好きなところだとか。

著者略歴

伊藤一彦(いとう かずひこ)

昭和18年、宮崎市に生まれる。早稲田短歌会を経て、「心の花」に入会し、現在選者。
歌集に『海号の歌』(讀賣文学賞)、『新月の蜜』(寺山修司短歌賞)、『微笑の空』(迢空賞)、『月の夜声』(斎藤茂吉短歌文学賞)、『待ち時間』(小野市詩歌文学賞)、また歌集『土と人と星』及び評論『若山牧水―その親和力を読む』により現代短歌大賞・毎日芸術賞・日本一行詩大賞を受賞。若山牧水記念文学館館長。宮崎市に住む。

 

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バックナンバー

  • 8月23日:生(いき)づらは生きいきした顔生(なま)づらは憎らしい顔 日向弁では
  • 8月22日:知らぬ間に庭の暗き辺に出でて咲き知らぬ間に消ゆ狐の剃刀
  • 8月21日:うるはしさかぎりなしとぞ友人ら言ひにし声を聞くすべのなき
  • 8月20日:準決勝の「矢」の題に原発の「避難経路の矢印」の歌
  • 8月19日:言尽くしきらきらと君たたかへよ題は「海」「恋」そして「屋上」
  • 8月18日:三隅とふ地方に生きし香月なり安井君もまた木城に暮らす
  • 8月17日:「避難民」のひとりひとりの表情と心根ゑぐるぬばたまの黒
  • 8月16日:精霊舟送らむとして老若のつどふ大淀川の岸の辺
  • 8月15日:わが父は「のさん」などとは生涯に一度も言わぬ肥後モッコスなりき
  • 8月14日:他(た)の入居者「希望」や「光」 我が母は「まこち、のさん」と堂々書けり
  • 8月13日:「死んでからお菓子供へて、いや死んでからは意味ない」と言ひゐたる母
  • 8月12日:教育と脅迫わづか一音のちがひと語る信念の風
  • 8月11日:生前は力なけれど生首となりて実朝ひとぞよめかす
  • 8月10日:聴力の検査うけつつ潮力も感じてゐるか幽(かそ)けき音に
  • 8月9日:調和ある微笑なりにき字余りも語割れも句またがりも秘めつつ
  • 8月8日:当人は迷走などと思はねば楽しからむか好き勝手して
  • 8月7日:一日を終へし芙蓉の花びらも比喩となりたる蝉もうれしや
  • 8月6日:絣着て草鞋脚絆に旅をする恋のとりこの幾山河よ
  • 8月5日:成虫は今こそ啼け啼け土中長きいのちぞ嘉し蝉殻に触る
  • 8月4日:ありふれた場面を歌ひ読む者にいかに「待つた」をかけるかが勝負
  • 8月3日:東京でもどこでも今はありのまま『ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ』話し人を引きつく
  • 8月2日:親愛の情をあらわす接尾語の「こ」のあたたかさ土のにほひす
  • 8月1日:からすらに食はれたるらし土産などなければよきか庭のブルーベリー

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