《九月十四日》灯を惜しみ言葉を惜しみ夜は長し

二子玉川の再開発からとり残されたように、地区会館の二階屋はひっそりと建っている。うす暗い玄関でスリッパにはきかえて、なお暗い階段を上った会議室に、仕事帰りの十数人が集まって、「かずのこ会」の句会が開かれる。和子の会を捩った命名。発会の頃、四十五歳のビジネスマンだった人々も定年を迎え、古稀を越え、私自身も日が暮れてから都心に向かうのはしんどくなったので、この会場に変えたのだが、ここも建て替えが決まって、今宵限り。来月から又、会場探しが始まる。

著者略歴

西村 和子(にしむら・かずこ)

昭和23年 横浜生まれ。
昭和41年 「慶大俳句」に入会、清崎敏郎に師事。
昭和45年 慶応義塾大学文学部国文科卒業。
平成8年 行方克巳と「知音」創刊、代表。
句集『夏帽子』(俳人協会新人賞)『窓』『かりそめならず』『心音』(俳人協会賞)『鎮魂』『椅子ひとつ』(小野市詩歌文学賞・俳句四季大賞)。
著作『虚子の京都』(俳人協会評論賞)『添削で俳句入門』『季語で読む源氏物語』『季語で読む枕草子』『季語で読む徒然草』『俳句のすすめ 若き母たちへ』『気がつけば俳句』『NHK俳句 子どもを詠う』『自句自解ベスト100西村和子』ほか。
毎日俳壇選者。
俳人協会理事。
NHKラジオ「文芸選評」選者。

 

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バックナンバー

  • 9月22日:散切り(ざんぎり)の鬢付け馨れ天高し
  • 9月21日:冷まじや己が修羅を彫り出だし
  • 9月20日:木つ端とて仏性葉擦とて秋声
  • 9月19日:その母の無念やいかに獺祭忌
  • 9月18日:しとど濡れたり疲れ鵜のこぼれ羽も
  • 9月17日:母も一作者たりけり牧水忌
  • 9月16日:旅支度ついでの後(のち)の更衣(ころもがヘ)
  • 9月15日:花上げて貧乏蔓邪気もなし
  • 9月14日:灯を惜しみ言葉を惜しみ夜は長し
  • 9月13日:露草の凛々と町目覚めけり
  • 9月12日:秋耕の一昨日の畝今日の筋
  • 9月11日:漕ぎ寄せて樹樹の秋思を乱すまじ
  • 9月10日:フライトに一時間あり走り蕎麦
  • 9月9日:ピストルが鳴って暗転秋の夜
  • 9月8日:早世の墓標老いたり秋薔薇
  • 9月7日:憶良らの秋七草の節(ふし)いかに
  • 9月6日:吾亦紅思ひつめたる色に凝り
  • 9月5日:銀盤に横たへけぶる黒葡萄
  • 9月4日:雑踏の隙間絶え間を秋の風
  • 9月3日:虫集く音楽堂の音も消えて
  • 9月2日:常夜灯目がけ山霧籠めきたり
  • 9月1日:松虫草夢二の庭にさしのべて
  • 8月31日:露けしや吾妻郡(あがつまごほり)灯しごろ
  • 8月30日:領主なりき熊棚示しくれたるは
  • 8月29日:山の雨直情秋桜純情
  • 8月28日:葛の花雫ふり分け吾妻線
  • 8月27日:秋暑し電車の停止位置ずれて
  • 8月26日:入るる擱(お)く起こす抛(なげう)つ筆の秋
  • 8月25日:言尽し心尽さず法師蝉
  • 8月24日:風葬を待つ落蝉よ天仰ぎ
  • 8月23日:秋口の鏡すみずみまで澄みて

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