《二月十四日》うらやましおもひきるとき猫の恋

越人えつじん

「越人猫の句、驚き入り候」と、芭蕉絶賛の一句である(元禄四年三月九日付去来宛書簡)。あれほど狂おしかった恋猫の声も、時期が来ればすっぱりと止んでしまった、その思い切りの良さが実に羨ましい、という句意。『俳諧雅楽集』に「猫の恋」の本意について「人情にかけておもふべし」とあるとおり、言外に、人の情欲の断ちがたさへの歎息が潜んでいる。初案は「おもひきる時うらやまし猫の恋」であったが、芭蕉の斧正が入り、今の句形になった。いわゆる三段切れで、句としての立ち姿はぎこちないが、それが恋に悩む者の苦しみを反映している。ぎくしゃくした言葉から歯ぎしりが聞こえてきそうではないか。今日はバレンタイン・デーということで、現代社会のあちこちでも、「うらやましおもひ切時……」の声が上がっているにちがいない。(『猿蓑』)

●季語=猫の恋(春)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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