《二月十五日》蝙蝠こうもりにみだるゝ月の柳哉

荷兮かけい

飛来した蝙蝠が乱すのは、月に照らされた柳の枝だ、という句意。「蝙蝠にみだるる月の」までは読んだときに、蝙蝠のはばたきによって月の光が乱されるという幻想的なイメージが浮かぶ。最後に「柳かな」と来て、柳の長い枝が蝙蝠によって揺らされている、という現実的なイメージを詠んだものだと気づくが、月が乱されているという印象はなおも、読者の中には残る。外山滋比古氏の言葉を借りれば「修辞的残像」によって、複雑な味わいを得ているのだ。柳は、垣根や村はずれに植えられたため、この世とあの世の境界という意味を持つようになった。幽霊が柳のもとに出没するのも、このため。それを思えば、幻想的というよりは、怪奇的という方が、この句には合っているか。因みに蝙蝠は夏の季語だが、春の季語である柳が、この句の主題。

●季語=柳(春)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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