《四月十七日》ぎんいろの編み針こまかく動かして端からゆっくり世界作るひと

電車に乗るとレース編みをする若い女性がいた。糸のところどころにビーズが光り、それを巧みに編み込んでいく。横座りの座席のほとんどの人がスマホを覗き込んでいるのに、女性だけが小気味良く編み針を動かし、ときどき網目の数を確かめたりしている。

著者略歴

松平 盟子(まつだいら めいこ)

歌人、歌誌「プチ★モンド」代表

愛知県生まれ。南山大学国語国文学科卒。「帆を張る父のやうに」により角川短歌賞。歌集に『プラチナ・ブルース』(河野愛子賞)『カフェの木椅子が軋むまま』『天の砂』『愛の方舟』など。著書に『母の愛 与謝野晶子の童話』『パリを抱きしめる』など。与謝野晶子のパリ滞在とその文学研究のためパリ第7大学にて在外研究(国際交流基金フェローシップ)。現代歌人協会および日本文藝家協会会員。

 

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