《五月十七日》麦藁の家してやらん雨蛙

智月ちげつ

「孫を愛して」と前書。幼子が雨蛙をつかまえて遊んでいるのだ。さあ、もうすぐ雨が降ってきそうだから、雨蛙さんのために、麦わらの家をつくってあげましょうね、と呼びかけた句。童話的な、優しい世界観に惹かれる。〝孫俳句に名句なし〟とはしばしばいわれるが、数少ない例外の一つがこの句であろう。ただの孫俳句では『猿蓑』に載る価値はない。「麦藁の家」からは、背景に収穫時の麦畑が想像される。「雨蛙」には、梅雨どきの曇り空がうかがえる。初夏の農村の季節感が濃厚に凝縮されており、そこに古人の詠み残した詩情を探ったのだ。(『猿蓑』)

●季語=雨蛙(夏)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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