《五月十六日》ひねもすを風に磨かれ太る実の姉のさくらんぼ、妹のさくらんぼ

印象派の女性画家ベルト=モリゾの作品が好きだ。中でも「桜の木」。少女の一人が脚立に乗り、実ったサクランボを摘んでいる。もう一人の少女は籠を差し上げ「ねえ、入れて」と促す。きっと姉妹だと私は思う。

著者略歴

松平 盟子(まつだいら めいこ)

歌人、歌誌「プチ★モンド」代表

愛知県生まれ。南山大学国語国文学科卒。「帆を張る父のやうに」により角川短歌賞。歌集に『プラチナ・ブルース』(河野愛子賞)『カフェの木椅子が軋むまま』『天の砂』『愛の方舟』など。著書に『母の愛 与謝野晶子の童話』『パリを抱きしめる』など。与謝野晶子のパリ滞在とその文学研究のためパリ第7大学にて在外研究(国際交流基金フェローシップ)。現代歌人協会および日本文藝家協会会員。

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 5月27日:降るものは拒まず雨も悪口(あっこう)もおおきな傘に今日は消えるから
  • 5月26日:政治的手腕が管理手腕である、そんなにほんにだれもが生きて
  • 5月25日:ハッシュタグ・ミー・トゥーに挙手したき日も繁忙が手をまた下ろさせる
  • 5月24日:辰砂色のクレーコートに競う者ラファエル・ナダルに今日神は降りよ
  • 5月23日:映画タイトル忘れしも津川雅彦のかの日の削がれし頬に恋する
  • 5月22日:川風に吹かれつつまとうカーディガン雲の重量そののち増せり
  • 5月21日:時代という生命体から鱗ひとつ落ちしと思う西城秀樹死す
  • 5月20日:信号に堰き止められて歪む波、人波という中のわれ一人
  • 5月19日:足指の爪はいささか醜くて異物めくなり青葉の下に
  • 5月18日:肩凝りの金属張りの両肩がふぅとやわらぐこの海風に
  • 5月17日:波音を聞くために来て海に向く青々とせる搏動を抱く
  • 5月16日:ひねもすを風に磨かれ太る実の姉のさくらんぼ、妹のさくらんぼ
  • 5月15日:革命ののちなる残夢 サクランボ赤く実ればパリ市民仰ぐ
  • 5月14日:石畳剥ぎ取りしパリのデモ隊をいま問うあれは革命だったのか
  • 5月13日:藤房をふうらり揺らす風の手とわたしの手とがつながった日よ
  • 5月12日:幼少のみぎりに発芽せし熱のみなもとに逃避願望の種
  • 5月11日:われら知らぬ標(しるべ)を選びし友ならん「じゃあ」とも言わずふっと消えたり
  • 5月10日:肩凝りの樋口一葉目をほそめ若葉寒の日は肩を揉んだか
  • 5月9日:なんにでも「あげる」親切うるわしく夜(よ)のパソコンをOFFにしてあげる
  • 5月8日:ひとさじの瑠璃色のジャム溶かしたり記憶の壺のヨーグルトに入れ
  • 5月7日:CDタイトル「高原の朝」ウグイスやホトトギス鳴く虚空に身を置く
  • 5月6日:飴色のヴァイオリン顎に押さえつついつもより深く息する友は
  • 5月5日:夕日浴びるレンガ造りの新橋駅そこより発つ者見上げただろう
  • 5月4日:朗読の寺山の訛なつかしき「モカ珈琲」の声くぐもるも
  • 5月3日:ネットで読む安易を許せこの国の憲法はいま七十四歳
  • 5月2日:砂浜に太田正雄も見ただろう五月の海光しろじろと燃ゆ
  • 5月1日:皐月ついたち陽光ふかく射し入れば出窓をひらく金砂のひかり

俳句結社紹介

Twitter