《六月十四日》あぢさゐを五器ごきに盛らばや草枕

嵐雪らんせつ

前書に「大津の駅に出て」。有間皇子の「家にあればに盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る」(『万葉集』)の名歌を念頭に置いた一句である。悲運の皇子は反逆の罪に問われて紀の国に向かう途上、椎の葉に盛った飯に涙を注いだが、自由気ままな俳諧師である自分は、椀に紫陽花を盛りつけるなどして貧しい旅を楽しんでいる、という句意。「五器」は飲食に用いる蓋つきの木の椀で、旅にも携帯した。花を生けるのに花瓶ではなく「五器」であるというのが意表を衝くが、ヴォリュームのある紫陽花の花は、椀に盛ってみたらなるほど映えるかもしれない。「挿す」のではなく「盛る」というのが紫陽花らしい。色の移りやすい紫陽花に、権力闘争に巻き込まれて命を落とした有間皇子の境遇を重ねている面もあるだろう。

(『杜撰集』)●季語=紫陽花(夏)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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