《七月十二日》山寺や岩に負けたる雲の峯

桃隣とうりん

芭蕉三回忌の折に、その足跡を慕い、東北行脚した際の作品をまとめたのが桃隣篇の『陸奥衛』(元禄十年跋)である。桃隣は伊賀上野の人で、芭蕉の血縁者であった(甥とも従弟ともいわれる)。掲げた句は「立石寺」の前書があり、いうまでもなく芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蟬の声」のオマージュ。句意は、そびえたつ雲の峯にも増して、この山寺のたたずまいは圧倒的である、というもの。「暑に勢ひ有心」(『俳諧雅楽集』)を本意とする「雲の峯」を引き合いに出して、それ以上だとすることで、「岩に巌を重て山と」(『おくのほそ道』)した「山寺」の峻厳さ、荘厳さを讃えた。青葉の茂った山のかなたに、真っ白な雲の峯が座っているという情景に、夏らしい色彩感がある。おそらく蟬の声もさかんに湧いているのだろう。「負けたる」という語には、桃隣が芭蕉に寄せる畏敬の念も滲んでいる。

(『陸奥衛』)●季語=雲の峯(夏)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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