《七月十三日》船頭のはだかに笠や雲の峰

かく

船頭がふんどし一丁で笠をかぶっている、雲の峯が湧くような暑さである、という句意。暑さのあまり着物を脱いでしまったのだろう、舟を操るたびに隆々たる筋骨が活発に動くのが目に見えるようだ。一個の人間ながら、雲の峯とじゅうぶんに張り合えている。『連歌至宝抄』には、「雲の峯」は漢詩から出た言葉で(陶淵明の「夏雲奇峰多し」の詩句はよく知られていた)、連歌ではほとんど用いないと書かれている。つまり、「雲の峯」はまだ先人に踏み込まれていない、俳諧の独壇場であったわけだ。其角には「壁ぬりの泥鏝こての動きや雲の峰」(『きれ〴〵』)という句もあり、これも秀句。船頭や左官といった肉体労働者の活力ある描写を通して、「雲の峯」の風景を詩として定着させようとしている。さて、「雲の峯」の季語の可能性を、後世の私達は、どう広げていけるだろう。

(『喪の名残』)●季語=雲の峯(夏)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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