《七月十四日》日の岡やこがれて暑き牛の舌

正秀まさひで

「日の岡」の名にふさわしく、日のぎらぎらと照りつける峠道を、牛がだらりと舌を垂らしながら進んでいく暑さよ、といった句意。「日の岡」は山城国の地名で、京から大津へ抜けていく途中の峠であり、東だけが開けていて朝日を受けるのでその名が付いたという。ここでは、地名の「日の岡」に「日の照りつける岡」の意味が重ねられている。芭蕉の「雲の峯いくつ崩れて月の山」(『おくのほそ道』)において、山の名の「月山」に「月の光を浴びた山」の意味が重ねられているのと同様だ。地名の妙味を引き出しつつ、限られた音数に複数の情報を入れこむ巧みな手法といえる。「日の岡」と大きく打ち出して「牛の舌」と小さい部分に焦点を絞り込む構成も隙がない。牛の遅々とした歩み、そして舌をだらしなく出した顔が、暑さに拍車をかけるのだ。

(『猿蓑』)●季語=暑し(夏)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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