《八月十一日》かさねとは八重撫子の名なるべし

曾良そら

『おくのほそ道』の行脚において、那須野を馬で渡る芭蕉と曾良のあとに、小さな子供たちがついてきて、名を問えば女の子は「かさね」と答える。東北の地にも、古き代の姫のような名の伝わっていることに感じ入って、襲の着物を思わせる「八重撫子」の名に似つかわしい、と言ったのだ。言葉を通して、古き時代に、そして見知らぬ土地に、心を通わせている。旅の醍醐味だ。なお、このエピソードには後日譚がある(俳文「重ねを賀す」元禄三年成立)。芭蕉は道すがら、もし自分に子供があればこの名をつけたいと、曾良に冗談めかして言っていたところ、たまたま女の子の命名を頼んできた人がいたので、美しく成長してほしいという願いをこめて、「かさね」と名付けたのだという。なお、「撫子」は現在では秋に分類されているが、俳諧では夏の季語。「八重撫子」は園芸品種で、花びらが幾重にも重なって咲く。

(『おくのほそ道』)●季語=撫子(秋)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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