《八月十三日》一めぐり人待ちかぬるをどりかな

尚白しょうはく

『あら野』の「恋」の部に見られる句。踊りの輪にみつけた素敵な人が、ひとめぐりしてもう一度まわってくるのが、なんとももどかしい、というのだ。『俳諧雅楽集』によれば、「踊」の本意は「賑やかなるもの 恋を内に持てなつかしき心」という。俳諧・俳句で「踊」といえば、盆踊りのこと。盂蘭盆会の習俗であるが、男女の出会いの場である歌垣的な一面もあり、俳諧ではむしろこの面に着目する傾向がある。旧暦七月十五日の満月の下、踊りの場は、性の熱気に満ちるわけである。尚白の作は、踊りの輪の中で見そめた娘への思いを詠んで、すこやかな恋の句となっている。「人待ちかぬる」の歌語は、女が通って来ない男を待つ場合に用いられるが、ここでは男女を逆転させ、あえて卑俗な盆踊りの場に用いたのが狙いどころ。今の若者風にいうと、ライブステージで、目当てのアイドルが近づいてくるのを、いまかいまかと待ちかねている感じだろうか。

(『あら野』)●季語=踊(秋)

著者略歴

髙柳 克弘(たかやなぎ・かつひろ)

1980年 静岡県浜松市生まれ。2002年 「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年 「息吹」五〇句によって俳句研究賞受賞。2005年 藤田湘子逝去。新主宰小川軽舟の下、「鷹」編集長就任。2008年 評論集『凜然たる青春』によって俳人協会評論新人賞受賞。2010年 第一句集『未踏』によって第一回田中裕明賞受賞。2017年、Eテレ「NHK俳句」選者。著書に『凜然たる青春』(富士見書房)、『芭蕉の一句』(ふらんす堂)、『未踏』(ふらんす堂)、『寒林』(ふらんす堂)、『NHK俳句 作句力をアップ 名句徹底鑑賞ドリル』(NHK出版)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』(慶應義塾大学出版会)。読売新聞夕刊「KODOMO俳句」選者。浜松市やらまいか大使。

 

 

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