○水音のおたまじやくしはまだ卵 「おたまじやくしはまだ卵」というのは非常に巧いなあ、と思いました。小さな粒みたいで、すこしおたまじゃくしのような形にも見えるんですね、ちょっとくびれが出来てて、それを「まだ卵」と言ったのがいいし、「水音の」という上五もいいですね。かすかに水の音が響いているような感じがあります。こころの中で思ったことがそのまま言葉になって表現されていて非常に良い句だと思いました。
○いつまでも外明るしと蝶生れ これも巧い句ですね。日永ということなんですが、いつまでも外が明るいというのは実感がありますよね、そこに「蝶生れ」という季題をつけたのがなかなか技巧として上手いんじゃないかと思いました。
○冴返る供花にかならず赤き花 赤い花なんで菊ではないんですよね。何の花かちょっと知りませんが、やはり「冴返る」という体感と花の赤さがうまくマッチしているという感じがあります。
○この墓地に名士あまたや猫の恋 この猫というのが合うんですよね、名士に。「我が輩は猫である」というふうなことをふと連想したりして、これは「猫の恋」のもつユーモラスな感じがうまく出ていると思います。
○おくつきは明るく寒く春の鳥 これも上手い句ですね。「春の鳥」ということで特定していないんですよね。「おくつき」ということばの持つ印象ですよね、ただの墓なんだけど墓と言わずに、「おくつき」というところが確かに明るいような寒いような場所であるということと、春の鳥がいるっていうことがなにかしっくりきますね。
○墓原に覚えありけるあたたかさ むかし見たような印象ってあると思いますが、同じお寺に確かに来たことがあるというような、そこでふっと感じるあたたかさというのは共感できるものでして…。かたちから言うと「覚えありけり」で切って「あたたかし」としたほうがいいかもしれません。
○奥つ城に育つ木々あり春の風 これも「奥つ城」ということばが巧く使われていますね。この「育つ」というのがですね、「育つ」と「墓」という概念が逆向きだということもあるんですが、これはそれほど理屈っぽくないですね。
○霊前に言問だんご桜餅 「言問だんご」がいいですね。季題は「桜餅」であるんですが、「言問」ということばの意味が生かされているんじゃないかと思います。
○つつましく笑ふ喪の人桜餅 たしかに、喪中の人がですね、なにか話しかけられてお見舞いのことばを聞いてその反応がつつましく笑うというのはよくわかることです。「桜餅」という季題は、なんというか華があって救いがあっていいのではないですか。