ぼくらはもう出発しないのだ
けして起こるわけのないことを
待つことをぼくらはおぼえた
ぼくはきみのくちびるの裏に
ぼくらに少し似ている言葉を書きつける

J-M.Maulpoix
『対訳フランス現代詩アンソロジー』(2001、思潮社)による
《詩人のラブレター》1の詩は、2連目に入ると、様子が変わります。月並みな日常の中で、ふたりの愛は忍耐の道場のようなありさまになってきました。きみのくちびるの裏にぼくが書く手紙はふたりの言い合いの弁解ばかり……あの忍耐強い相手への配慮はどこへ行ってしまったのでしょう?まさか釣った魚に餌はやらないなど、古いことわざを持ち出して居直ってみるつもりではないでしょうね。ともかく、相手のそっけなさよりも、自分の心の変わり果てたありさまに困惑し、呆然としている詩人の姿が見えて、ちょっと痛々しくもあります。
だから、詩や歌も、愛の持続のむずかしさをテーマにしたものが数多くあります。”Plaisir d'amour ne dure qu'un moment……愛のよろこびは一瞬間しか続かない…”で始まるマルティーニのシャンソンはその最も代表的なものの一つでしょう。愛の一瞬を得たばっかりに、それを失った悲しみは一生続いて行くのです。そんな辛さの予感をモルポワは、「もう出発しない」、「けして起こるわけのないこと」、「ぼくらにすこし似ている言葉」など、破綻寸前の危うさを含んだ言葉で表現します。愛の陶酔圏を一歩出たふたりの微妙な状態をうまく捉え、まだ破綻はしていないが、破綻に向かう予感におびえつつ書くラブレターです。
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