あした 夜が明けて 野が白めば すぐにも出かけよう
わかっているのだよ おまえが私を待っているのは
森を抜け 山を越えて 行こう
おまえから離れて暮らすことはもうできない。

Vicor Hugo 『Les contemplations 静観詩集』(1856)より
小池健男訳
フランスロマン派最大の詩人ヴィクトル・ユゴーの4行3連の哀歌です。
日本では長編小説『レ・ミゼラブル』がつとに有名ですが、本国フランスではいくつもの詩が長年愛唱されています。なかでも、この喪失の哀しみにみちた詩は、聖書の文言にも劣らずフランス人ひとりひとりの心の糧となっています。
ユゴーには3人の息子たちのほかにレオポルディーヌとアデールの2人の娘がありました。妹はトリュフォーの映画『アデルの恋の物語』に見られるように、失恋の果てに正気を失い、アフリカの放浪からかろうじて助け出されました。姉は美しく、父の愛を独占していましたが、新婚の夫と乗ったボートの事故で水死しました。詩の中で「おまえ」と呼びかけられているのは、死んだレオポルディーヌです。ユゴーは晩年、時の政府に反対して長い亡命生活を強いられましたが、共和制成立後には国民詩人として大衆に迎えられました。
ユゴーの詩を今読むと、盛り沢山な言葉を追いかけきれず最後まで読み終われないのですが、この小篇はシンプルで哀切なリズムがあり、最後まで一気に連れて行かれます。最終連「暮れていく夕べの こがね色も見なければ/アルフルールへくだっていく 遠くの白帆も見るまい/着いたらすぐに おまえの墓に捧げよう/緑のひいらぎと 花の咲いたヒースをたばねて。」当時住んでいたルアーヴルから、レオポルディーヌの埋葬されたヴィルキエの墓地まではおよそ35キロほどあるので、当時54歳だったユゴーですが、夜明けに起き出して歩いて行こうという父の哀しみは率直に読み手の心を揺り動かします。
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