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有働薫の詩人のラブレター

◎詩人のラブレター19

やさしくも美しき恋人よ、われは愛づ、
汝が切れ長の眼の、さみどりの輝きを、
されど今日、ものみなは、われに苦く、汝が愛情も、
汝が密室も、また汝が暖房も、海に照る陽の価あらず。



Charles Baudelaire <<Chant dユautomne>> 詩集『悪の華再版』1861より
堀口大学訳


 ボードレールの代表作の1つ、「秋の歌」第2部の出だしの4行です。第1部は名高い「われ等やがて、冷たき闇に沈み入らん/おお、さらば、左様なら、短きに過ぎし、われ等が夏の、生気ある輝きよ!」で始まっています。「もう秋か!」と嘆息したランボーと共通した喪失の旋律を結晶化しています。ボードレールとランボーは詩人としては父と子のように思えます。

 詩集『悪の華』の日本語訳はいくつもありますが、「切れ長の眼」と訳した堀口大学の訳に私は強い印象を受けました。以後「切れ長の眼」という日本語に出会うたびに「秋の歌」第2部の出だしが浮かんでくるのです。伝記的には憧れの女優マリー・ドーブランを歌ったといわれています。他に混血の愛人ジャンヌ・デュバルを歌った20数篇の詩もあり、また30代の初め、サロンの女主人サバチエ夫人に送った「讃歌」と題する詩では、「天使」、「不滅の御像」などフランス語の至上の賛辞が捧げられていて、「秋の歌」と共に歌曲になって現在も愛唱されていますが、この「秋の歌」第2部に比べると陰影がありません。
 前衛であるがために世の中に受け入れられない苦汁の中で、海に照る秋の陽射しに及ばないと意地を張りながらも、女性の愛情に包まれたいとねがう詩人の生身の感情が、後代のわれわれの胸ににじみます。


有働 薫(うどう・かおる)
1939年東京杉並生れ。第1詩集『冬の集積』(詩学社)、第2詩集『ウラン体操』(ふらんす堂)ほか。 モルポワ訳詩集は、『夢みる詩人の手のひらのなかで』(ふらんす堂)、『エモンド』(ふらんす堂)、『青の物語』(思潮社)。
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