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有働薫の詩人のラブレター

◎詩人のラブレター27

なつかしくうるわしきひと、
光もてわが胸みたす、
天の使者、不滅の御像、
君にこそ不死の幸あれ!




ボードレール『漂着詩篇』より「讃歌」抄 小松清訳


 1854年34歳のボードレールがサロンの女主人サバチエ夫人に送った匿名のラブレターに添えられていた詩だと言われています。4行5連の小さい詩の第1連で、サバチエ詩篇と呼ばれるものの中ではもっとも毒の少ない作品です。詩集『悪の華』は風紀紊乱のかどで6篇の削除と罰金を言い渡されましたが、黒い肌の女性との愛と同性愛をテーマにした作品のほかの1篇は、世に時めくこのアイドルへのサディスティックな感情をストレートにぶつけたものでした。これらは『悪の華』の末尾に付された『漂着詩篇』にまとめられていますが、同じ『漂着詩篇』の中でも、上掲の詩は不滅のアイドル(l’idole immortelle)への率直な賛辞が連ねられています。

 ボードレール論を残したW.ベンヤミンによれば、同じ19世紀のパリを描いても、ユゴーとボードレールはまるで視点が違うわけですが、青年のボードレールが時めく美女へよせる憧れと、中年のユゴーが愛してやまない娘に寄せる愛惜の気持との間に共通する率直さは、詩学の対立とはまた別のものでしょう。47歳で窮乏死したボードレールの壮絶な闘争はまだ意識下にあり、自信に満ちた詩人その人が若々しく現前(プレザンス)しています。

 のちに作曲家のフォーレがこの詩に曲をつけています。「讃歌」の譜面の音符をピアノで雨だれ式にたどっていくと、出だしから半音ずつ高まっていくクレッシェンドに、清潔な熱情が高まっていき、理性と秩序を誇るラテン精神がめざす不滅(immortel)の美を実感させられます。


有働 薫(うどう・かおる)
1939年東京杉並生れ。第1詩集『冬の集積』(詩学社)、第2詩集『ウラン体操』(ふらんす堂)ほか。 モルポワ訳詩集は、『夢みる詩人の手のひらのなかで』(ふらんす堂)、『エモンド』(ふらんす堂)、『青の物語』(思潮社)。
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