…けれどあれは
ただの鳥、ふくろうと呼ばれる鳥なのだ、郊外の
森の奥からわたしたちに呼びかけるのは。そして、
すでに、わたしたちの匂いは
くさりゆくものの匂いだ、夜の明けるとき。すでに、
わたしたちのこんなに熱い皮膚のしたで骨が刺す。
刺しつらぬく星が街のかどに沈みこむとき。

Phillippe Jaccottet 詩集『ふくろう』(1953年ガリマール社刊)より
訳は吉田加南子 『フランス詩大系』(1989年青土社刊)より
フィリップ・ジャコテは1925年スイスのムードンに生まれました。ローザンヌ大学で文学を修め、就職してパリに住み、その後結婚して南仏プロヴァンスの町グリニャンに住んで詩作と翻訳にうちこみました。わたしたちにとって同時代の現役の詩人を読むことはとても大きな喜びですが、残念ながら昨2007年に亡くなりました。ここでは、ジャコテと言えば「ふくろう」と浮かぶほど名高い詩「ふくろう」の最後の数行をとりあげました。6月の真夜中、森からふくろうの声がして、森の中へ自分を誘っていくようだと歌う15行の詩です。
日本ではジャコテは大学の紀要などにしばしば取り上げられてきましたが、まとまった詩集として読めるようになったのは、2004年に国文社から刊行された後藤信幸訳『冬の光に』によってでした。詩集『冬の光に』の中の、義父にあたる、スイスの小新聞「プティト・フィユ」の編集者だったルイ・エスレルへの追悼として書かれた詩「教え」では、死の意識の人一倍強い彼にとって、敬愛する人への哀悼を強く書くよりも、むしろ親しい人の死の有様に真正面から向き合おうとする意志が強く表れ、その挑戦はこの詩集の中ほど、「何かが入り込んで 破壊する。/何と惨めなこか/別の世界が その楔を 一つのからだのなかに/打ち込む時は!//わたしに期待しないで欲しい/光をこの鉄に結びつけるなどと。」と詩人としての強いメッセージが打出されています。今秋には同じ訳者によって次の訳詩集の出版が予定されているとのことです。
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