ひとたび相手の心臓がどきどきするのを聞いても ただ
それだけ この心の高鳴りは
たちまちにして尽きてしまうかれらの命に
添うためでしかなく いのちは
かれらを
もう
待たない…


上掲の数行はPOL社から1984年に出版されたポ−ル=ルイ・ロッシの詩集“Les Etats provisoires かりそめの”中の組詩の冒頭の一部です。詩人の説明によれば、「ケルト王国の石碑では、美女デルドリューは愛の証しに岩で自分の頭を打ち砕いたといわれている。だからこの本の最初の空間をかたちづくるのは、愛惜と嘆き、そして愛と恋人たちのあらゆる状況である。」《言葉と死のあいだにある距離》を、ポール=ルイ・ロッシは、自分の作品の言葉と言葉のあいだにさまざまな大きさの空白を置くことで、捕えようとします。この距離、つまり空白が、後戻りのきかない愛の内容だと考えるからです。引用の分量が少ないのが残念なのですが、ブルターニュ人の母と、イタリア人の父を持ち、フランス西部の旧ブルターニュ公国の首都ナントに生れた詩人にとって、父祖の伝説をたどることはやむにやまれぬ自己確認の作業でもあるのです。いっぽうでは、ロッシはジャック・ルボーの影響を強く受けて日本文学に傾倒し、《詩の形式性は、私が詩情性 le poetisme と呼ぶものに反するはずであった》と驚きつつ、創作観に大きなヒントを得ています。さらに、1934年生れの詩人は、世界への幻滅と危機に瀕した現代をいかに乗り越えるかを問って、イギリスの古いウエールズ詩の技法カンハネズにならい、古い野性の韻律を取り戻したいと考えています。 2004年秋、ナント市の市立図書館でポール=ルイ・ロッシ展が開かれました。夫人の詩人マリ・エチエンヌさんの隣に私のお送りしたパネルを見つけてうれしく思いました。
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