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有働薫の詩人のラブレター

◎詩人のラブレター34

御婦人がた、私の恋を咎めないでください
この胸に過ぎた数多燃えさかる篝火(かがりび)や
種々の恋の骨折り、心苛(さいな)んだ苦しみを、
また、涙とともに費した歳月のことを。

ああ、私の名を謗(そし)らないでください
誤ちをおかしたとしても、苦しみは今なお残ります、
その激しい痛みをさらに鋭くするのはおよしください、…





 ルイーズ・ラベは、リヨンの裕福な商人の娘として何不自由なく当時の女性として最高の教養を身につけて育ちました。、フェンシングや乗馬を愛し、男装して遠出したりもしたそうです。綱具屋小町(ラ・ベル・コルディエール)と呼ばれて、結婚後も、奔放で度重なる恋愛のため世間の猛烈な非難を浴びました。イタリア語、スペイン語も堪能で、周囲には詩人たちが集まり、このグループは後にリヨン派と呼ばれます。イタリアに近い土地柄、ルネッサンス運動の息吹を受けて、個人の感情をいちはやく豊かに表現しました。生涯に一冊の詩集を残すのみですが、その詩には、身から溢れこぼれるような愛と苦悩と官能が定着されています。『作品集(ウーブル)』と題するこの詩集は24のソネットと3つのエレジーから成立しています。ここではとくに名高い最後の24番のソネットの前半を取り上げました。それまで恋愛感情を切々と歌い続けていた詩が、ここで、猛烈な反省に包まれ、その心情溢れる、偽善のない悔恨がかえって読み手の心を打ちます。詩は後半、でもね、奥様がた、いつか不思議な抑えようのない愛の情熱が貴女を襲うかもしれませんよ、お気をつけ遊ばせ、と反撃に移っているのも興味深いことです。ですからこの詩は、自分の愛を非難する人々への、人間味豊かなルイーズの無罪証明と警告の手紙でもあるのです。エレジーの第三歌の冒頭で、「私の率直さ、私の無分別な若気の過ち」と歌いながら、「もしそれが誤りであるのなら」とつけ加えることをひかえはしません。16世紀リヨン派の宗匠モーリス・セーヴのプラトニックな恋人と言われ、こちらは貞淑の評判高く25歳で若死にしたペルネット・デュ・ギエの『詩集(リーム)』と同じ出版社から、ルイーズの詩集も10年おくれて刊行されているのも、織物産業発展がきざし始めた商業都市リヨンの繁栄の証しでもあるのでしょう。


有働 薫(うどう・かおる)
1939年東京杉並生れ。第1詩集『冬の集積』(詩学社)、第2詩集『ウラン体操』(ふらんす堂)ほか。 モルポワ訳詩集は、『夢みる詩人の手のひらのなかで』(ふらんす堂)、『エモンド』(ふらんす堂)、『青の物語』(思潮社)。
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