シーツの砂漠で哀しくて
男は床を離れ 灯りをつける
はだかの男は
ランプの柱にからだをもたせかける
ふたごの影法師が
別れて
虫の詰まった敷居をまたぐ

Marie-Claire Bancquart 自選提出作品 有働薫訳
『対訳フランス現代詩アンソロジー』2001年思潮社刊より
マリ=クレール・バンカールは1932年南仏アヴェロン県のオーバン生れ、パリ第4大学でフランス19世紀文学を教え、モーパッサン、アナトール・フランスらに関する評論のほか、10数冊の詩集を出版しています。『棄てられた女の思い出』は1979年度マックス・ジャコブ賞、『謎めいて』は1996年度シュペルヴィエル賞を授与された代表詩集です。
彼女の詩を読んで真っ先に感じるのは、知性です。簡潔で、明快な言葉。多すぎもせず、少なすぎもせぬ言葉の流れは清流のように読み手の心を潤していきます。それからこの詩人の精神へのゆるぎない信頼感が生れます。この人の人格、この人の意識。だからこの人の詩をときに取り出して読みたくなるのです。そして広やかな世界観。明晰を最も重んじるフランス精神がかたちをとって現れています。よく肉体を歌いますが、やがてそれを骸骨にして、例えば綱の端の愛犬を骸骨にして、「彼は私の親友である」と言うようなユーモアもあります。上掲の詩の後半は、「ひと足ごとに草を数えて/夜の庭をよこぎる//男は菩提樹を抱きしめる/薫りの人になり/時とともにめぐる//今はもう男は眠る/乱れた虚空のベッドの中で」です。夜の男性の裸体を描きながら、彼の精神に静かにしみいって行く、素描のような清々しさがあります。
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