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有働薫の詩人のラブレター

◎詩人のラブレター44

わがスザンナはすみれ色だと思う
そして豊満で重々しい
いや彼女の名前は
スウエーデンでは
乱暴かもしれない

わたしはバイユーで
豊満な女性を気取った
自由の樹の下で
枝々の間の青い空間が
二人の老人の頭をくっきりと示した


Anne Portugal “Le plus simple appareil“”(1992年 P.O.L.社刊)
アンヌ・ポルテュガル 詩集『世にも簡素な装い』より


アンヌ・ポルテュガルは1949年フランス西部メーヌ・エ・ロワール県の町アンジェに生れました。ピエール・アルフェリと並んでフランス最現代詩の旗手と期待されています。すでに60歳の彼女を何がそれほど重要な位置に置いているのでしょうか?常に比肩されて論じられるアルフェリのほうは、1963年生れですから、14歳も年下で、ポストモダン派の哲学者ジャック・デリダの子息であり、若年から秀才の評判の高い切れ者です。大阪大学で長年フランス文学を教えてきた文芸評論家アニエス・ディソン女史は常にこのふたりをまとめて論じて、フランス現代詩の将来を託しています。ふたりの作品に共通して現れている特徴は、文章の破壊と再構築でしょう。すでに正確かつ端正な文章家である二人は、まずその自分の特性を惜しみなく打ち砕くことから、詩の可能性の探求に乗り出します。《世にも簡素な装い》とは、女性の裸体のことです。ティントレット、レンブラントらが描いている『スザンナの水浴』と題する絵画がありますが、この絵はテーマを聖書の逸話からとっており、美貌の人妻の水浴びの姿をふたりの老判事がのぞき見する。それを咎められたふたりは自分たちは彼女に誘惑されたものだと偽証するが、預言者ダニエルがその偽りを暴くという筋書きです。老判事は外見として端正である文章にあたるでしょう。その文章が窺いつけ狙うスザンナの裸体は常に裸でさらされている詩そのもの、老人たちはそれを欲しがりしつこく目をつけながらもいざとなると自分たちの言い逃れの犠牲にしようとする。真の詩人はその詩が受ける誤解からその本質を指摘することによって解放し、一見何の瑕瑾もなく見える完璧な文章の狡猾な下心によって覆い隠されてしまった美(真の欲望)を取り戻そうとするでしょう。常に詩の本質的な読みに大きな価値を与えてきたフランス詩のあり方を代表する書き手として期待が寄せられているのです。ポルテュガルは1999年以来たびたび来日し、早稲田大学、学習院大学他で講演と朗読を行っています。


有働 薫(うどう・かおる)
1939年東京杉並生れ。第1詩集『冬の集積』(詩学社)、第2詩集『ウラン体操』(ふらんす堂)ほか。 モルポワ訳詩集は、『夢みる詩人の手のひらのなかで』(ふらんす堂)、『エモンド』(ふらんす堂)、『青の物語』(思潮社)。
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