《十一月十四日(火)》足首まで闇にかりてゆうぐれの道を帰りぬ葱を立てつつ

京都の九条葱くじょうねぎは有名で、スーパーでもよく売っている。太めの青葱で、根っこ近くの白い部分も、固く締まっている。ざくざくと切り、ゴマ油で鶏肉と焼いて、温かいうどんの上にのせるだけでも、とても美味い。冬になるとよく作って食べる。「九条葱せんべい」というものもあり、憲法九条を護る会の方へのお土産にしたら、大変喜ばれた。

著者略歴

吉川宏志(よしかわ・ひろし)

1969年宮崎県生まれ。京都市在住。塔短歌会主宰。現代歌人協会理事。京都新聞歌壇選者。歌集に『青蝉』(1995年、第40回現代歌人協会賞)、『鳥の見しもの』(2016年、第21回若山牧水賞・第9回小野市詩歌文学賞)、『石蓮花』(2019年、第70回芸術選奨文部科学大臣賞、第31回斎藤茂吉短歌文学賞)などがある。評論集に『風景と実感』、『読みと他者』がある。

 

 

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  • 11月17日:液晶にガザの血は映りこちらまで溢れ出さねば卓上に置く
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  • 11月14日:足首まで闇に浸かりてゆうぐれの道を帰りぬ葱を立てつつ
  • 11月13日:雨水の退きたる土にどんぐりはどんぐり同士かたまり合えり
  • 11月12日:見ることも見ざることも罪 ガザの子は血に濡れ瓦礫の上を運ばる
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  • 11月10日:白葱を鍋のほとりにきざむたび車輪となりて転がる転がる
  • 11月9日:カセットの途中で切れた曲だった続きを聴けりその転調を
  • 11月8日:ジェノサイド止めるひと無きか 幻の谷と呼ばれし町を思いぬ
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  • 11月6日:秋暑し 郵便局に立ててあるシニアグラスが陽をふくらます
  • 11月5日:初期・晩期どちらが良きか論じつつ小籠包に醤油が滲みぬ
  • 11月4日:火は板を走りて大き絵となりぬ一度だけ見た祭りを話す
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  • 11月2日:陽に群れる紫苑の花のその一部切られて卓に影を帯びたり
  • 11月1日:毛の包む耳を撫でおりごめんなあ交尾させずに十年過ぎた

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